第3ゲームの悲劇(小説Ver)
2003年2月9日これはある男の身に実際に降りかかった、惨劇である。
2月9日、午前0時。
その男は友人たちと連れ立って、ボウリング場に来ていた。
この日既に2ゲームを消化していた友人たちは、次こそが本当の闘いだと息巻いている。
男も無論それに賛成し、第3ゲームが始まった。
男がゲームの続行に賛成したのには、2つの理由がある。
1つは、仲間たちと遊ぶこと自体を楽しんでいたということ。
そしてもう1つは、彼の2ゲーム目のスコアが低かったこと。
2ゲーム目で120台のスコアを出していた友人たちとは違い、男のスコアは86しかなかったのである。
基本的に負けず嫌いな性格である男にとって、この3ゲーム目は、プライドを賭けた大勝負だといってもよかった。
第1フレーム、1投目。
カッコーン!!
男の直前に投げていた友人は見事ストライクを決め、歓声を上げながらこちらへと戻ってくる。
男はそんな友人とハイタッチを交わし、クラスターの送風口から吹き出す風で手を乾かす。
1ゲーム目から使っている、紫色の14ポンド玉を手に取る。
雑布で丹念に玉を磨き、3本の指をそれぞれの穴に入れる。
そして。
ストライクを取れと煽る友人たちの声援を背に受けて。
自分もストライクを取るという闘志を胸に秘めて。
男はレーンの前に立つ。
玉を胸の前まで持ち上げる。
目を細めて、慎重に狙いを定める。
(ど真ん中に当てられれば…いける)
意を決して、振りかぶる。
玉が床に着くと同時に、男は手を離す。
ごろごろごろ。
玉はゆっくりと、だがしかし重い音を伴って転がっていく。
その軌道は、男が狙っていた通りの一直線。
(よし!)
やがて、玉は1番ピンに接触する。
ガコン!
玉は14ポンドの重みに任せて、全てのピンを薙ぎ倒す。
それを確認した男の右腕は、自然とガッツポーズを取っていた。
(この勝負、もらった!!)
第2フレーム、1投目。
同じレーンで投球する友人たちは、先ほどと同様にストライクやスペアを出している。。
男が彼らと対等なスコアを維持しつづけるには、やはりストライクを出すしかない。
その事実は、男のテンションと緊張を、否が応にも張り詰めさせる。
(さっきみたいにやれば、またストライクが取れる)
理想的な軌跡を描いた第1フレーム目を思い出しながら、男は座っていた椅子から立ち上がる。
験を担ぐかのように、先ほどと全く同じ行動を取る男。
クラスターの送風口から吹き出す風で手を乾かす。
14ポンド玉を手に取る。
雑布で丹念に玉を磨き、3本の指をそれぞれの穴に入れる。
男は再び、レーンの前に立つ。
玉を胸の前まで持ち上げる。
目を細めて、慎重に狙いを定める。
腕を振り上げ、投球動作を行なう男。
ごろごろ。
先ほどより、少しだけスピードが速い。
さらに、レーンの真中を過ぎた辺りで大きく左に逸れる。
ごとん。
玉は、男が最も恐れていたところへ―――
横の溝へと吸い込まれていった。
ガーター。
(マジかッ!?)
男は精神統一を図るつもりで、一度深く息を吸い込む。
何がまずかったのか、思い返してみる。
そういえば右手薬指には、先ほどの投球にはかからなかった力がかかっていた。
それが余計だったに違いない。
理由が分かれば、後は簡単だ。
左に行かなければいい。
第2フレーム、2投目。
(少し右に…少し右に…)
男は「右に」と強く念じながら、玉を投げる。
1投目の失敗を繰り返さないように。
(この1投に全てを賭ける!!)
使い慣れないスナップを効かせて、やや右に玉が行くように仕向ける。
その結果、玉は。
投げられた瞬間に、急激にレーンの右端へと消えていく。
間もなくして、男にとっては死刑宣告に等しい光景が展開した。
ごとん。
またも溝に落ちた玉は、10本も並んでいるピンの横を、10センチばかり低いところで転がっていく。
当然ながら、かすりもせずに消えていく紫色の玉。
ガーター2連発、確定。
これで完全に調子を崩した男は、続く第3フレーム、第4フレームの1投目までの3投が全てガーター。
清算時に受け取ったスコアシートは、このような状態であった。
_________________
| 1 | 2 | 3 | 4 |
|×| |G|―|G|―|G| 9|
| 10 | 10 | 10 | 19|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄(×はストライク記号の代わりです)
この後、最後の最後にストライク取りはしたけども焼け石に水。総合的なスコアは75でした。
こんな経験をした人は、きっと他にもいると思う。てゆーか思いこみたい。
P.S.ちなみにクラスターというのは、投げ終わった玉が出てくるあの機械です。
2月9日、午前0時。
その男は友人たちと連れ立って、ボウリング場に来ていた。
この日既に2ゲームを消化していた友人たちは、次こそが本当の闘いだと息巻いている。
男も無論それに賛成し、第3ゲームが始まった。
男がゲームの続行に賛成したのには、2つの理由がある。
1つは、仲間たちと遊ぶこと自体を楽しんでいたということ。
そしてもう1つは、彼の2ゲーム目のスコアが低かったこと。
2ゲーム目で120台のスコアを出していた友人たちとは違い、男のスコアは86しかなかったのである。
基本的に負けず嫌いな性格である男にとって、この3ゲーム目は、プライドを賭けた大勝負だといってもよかった。
第1フレーム、1投目。
カッコーン!!
男の直前に投げていた友人は見事ストライクを決め、歓声を上げながらこちらへと戻ってくる。
男はそんな友人とハイタッチを交わし、クラスターの送風口から吹き出す風で手を乾かす。
1ゲーム目から使っている、紫色の14ポンド玉を手に取る。
雑布で丹念に玉を磨き、3本の指をそれぞれの穴に入れる。
そして。
ストライクを取れと煽る友人たちの声援を背に受けて。
自分もストライクを取るという闘志を胸に秘めて。
男はレーンの前に立つ。
玉を胸の前まで持ち上げる。
目を細めて、慎重に狙いを定める。
(ど真ん中に当てられれば…いける)
意を決して、振りかぶる。
玉が床に着くと同時に、男は手を離す。
ごろごろごろ。
玉はゆっくりと、だがしかし重い音を伴って転がっていく。
その軌道は、男が狙っていた通りの一直線。
(よし!)
やがて、玉は1番ピンに接触する。
ガコン!
玉は14ポンドの重みに任せて、全てのピンを薙ぎ倒す。
それを確認した男の右腕は、自然とガッツポーズを取っていた。
(この勝負、もらった!!)
第2フレーム、1投目。
同じレーンで投球する友人たちは、先ほどと同様にストライクやスペアを出している。。
男が彼らと対等なスコアを維持しつづけるには、やはりストライクを出すしかない。
その事実は、男のテンションと緊張を、否が応にも張り詰めさせる。
(さっきみたいにやれば、またストライクが取れる)
理想的な軌跡を描いた第1フレーム目を思い出しながら、男は座っていた椅子から立ち上がる。
験を担ぐかのように、先ほどと全く同じ行動を取る男。
クラスターの送風口から吹き出す風で手を乾かす。
14ポンド玉を手に取る。
雑布で丹念に玉を磨き、3本の指をそれぞれの穴に入れる。
男は再び、レーンの前に立つ。
玉を胸の前まで持ち上げる。
目を細めて、慎重に狙いを定める。
腕を振り上げ、投球動作を行なう男。
ごろごろ。
先ほどより、少しだけスピードが速い。
さらに、レーンの真中を過ぎた辺りで大きく左に逸れる。
ごとん。
玉は、男が最も恐れていたところへ―――
横の溝へと吸い込まれていった。
ガーター。
(マジかッ!?)
男は精神統一を図るつもりで、一度深く息を吸い込む。
何がまずかったのか、思い返してみる。
そういえば右手薬指には、先ほどの投球にはかからなかった力がかかっていた。
それが余計だったに違いない。
理由が分かれば、後は簡単だ。
左に行かなければいい。
第2フレーム、2投目。
(少し右に…少し右に…)
男は「右に」と強く念じながら、玉を投げる。
1投目の失敗を繰り返さないように。
(この1投に全てを賭ける!!)
使い慣れないスナップを効かせて、やや右に玉が行くように仕向ける。
その結果、玉は。
投げられた瞬間に、急激にレーンの右端へと消えていく。
間もなくして、男にとっては死刑宣告に等しい光景が展開した。
ごとん。
またも溝に落ちた玉は、10本も並んでいるピンの横を、10センチばかり低いところで転がっていく。
当然ながら、かすりもせずに消えていく紫色の玉。
ガーター2連発、確定。
これで完全に調子を崩した男は、続く第3フレーム、第4フレームの1投目までの3投が全てガーター。
清算時に受け取ったスコアシートは、このような状態であった。
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| 1 | 2 | 3 | 4 |
|×| |G|―|G|―|G| 9|
| 10 | 10 | 10 | 19|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄(×はストライク記号の代わりです)
この後、最後の最後にストライク取りはしたけども焼け石に水。総合的なスコアは75でした。
こんな経験をした人は、きっと他にもいると思う。てゆーか思いこみたい。
P.S.ちなみにクラスターというのは、投げ終わった玉が出てくるあの機械です。
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